トップ / 法務DX / 法律事務所のノウハウをAIワークフローに変える、Harvey AIの新機能
法律事務所のノウハウをAIワークフローに変える、Harvey AIの新機能
Harvey AIのWorkflow Builder(現在のAgent Builder)が、法律事務所や企業法務のノウハウを再利用可能なAIワークフローへ変える意味を整理します。
LegalTech Media編集部
編集部

リーガルAIの話題は、ここ数年で「調査が速くなる」「契約書レビューが楽になる」といった個別作業の効率化から、もう一段進みつつあります。
今回取り上げるのは、米国のリーガルAI企業 Harvey が発表した Workflow Builder、現在の名称では Agent Builder です。
一言でいえば、法律事務所や企業法務部が持っている独自のノウハウ、判断基準、レビュー手順、書式、先例を、再利用できるAIワークフローとして組み立てるための機能です。
これは単なる「便利なAIツール」ではありません。法律実務における暗黙知を、組織の資産として再利用するための仕組み、と見ると面白いプロダクトです。
Harvey AIとは何か
Harvey AIは、法律事務所や企業法務向けに特化した生成AIプラットフォームです。一般的なチャットAIと違い、法務・専門職向けの文書分析、調査、ドラフト、ナレッジ活用などを前提に設計されています。
今回のWorkflow Builderは、Harvey AIを使う側が自分たちの業務に合わせたワークフローを作れるようにする機能です。
Harveyの公式発表では、Workflow Builderは現在 Agent Builder と説明されており、法律チームが自分たちの専門性や業務基準を、構造化された再利用可能なシステムに変換するためのものと位置づけられています。
ポイントは、AIに毎回プロンプトを投げるのではなく、「この種類の案件では、この順番で、この資料を見て、この観点で判断し、この形式でアウトプットする」という流れを、あらかじめ業務の型として作っておけることです。
何が新しいのか
従来の生成AI活用では、担当者がその都度プロンプトを書き、資料を読み込ませ、結果を確認するという使い方が中心でした。
もちろん、それだけでも便利です。ただし実務では、次のような問題が残ります。
- 担当者によってプロンプトの品質がばらつく
- よい使い方が個人の中に閉じてしまう
- チーム全体で同じ品質を再現しづらい
- 先輩弁護士や熟練担当者の判断基準が形式知になりにくい
- クライアントごとの対応ルールを毎回思い出す必要がある
Workflow Builderが狙っているのは、この部分です。
Legal IT Insiderの記事によれば、Harvey AIのWorkflow Builderは、Harveyの顧客が自分たちの業務に合わせた再利用可能なシステムを作れるようにするもので、従来のアドホックなプロンプト利用や、Harvey側が用意した定型ユースケースから一歩進んだものです。
つまり、「AIを使える人が個別にがんばる」段階から、「組織としてAIを使う型を作る」段階に移るためのプロダクトだと言えます。
たとえば何に使えるのか
公式ブログでは、Agent Builderによって、法律チームが自分たちの専門知識、トーン、業務プロセスを反映したカスタムエージェントを設計・展開できると説明されています。
イメージしやすい例を挙げると、次のような使い方です。
- NDAレビューの観点を自社基準に沿って自動チェックする
- デューデリジェンスで確認すべき項目を案件類型ごとに整理する
- 過去の先例を踏まえて契約ドラフトの初稿を作る
- クライアント別の報告書フォーマットに合わせてアウトプットする
- 社内のナレッジやひな形を使いながら、一定の品質でレビューを進める
ここで重要なのは、AIが勝手に法律判断をするというより、組織が持っている実務の型をAIに載せるという発想です。
法律事務所であれば、事務所独自のレビュー観点や、パートナーごとの判断基準、クライアントごとの期待値があります。企業法務であれば、自社のリスク許容度、契約方針、過去の交渉履歴、社内稟議の癖があります。
それらを毎回人間が思い出して適用するのではなく、ワークフローとして組み込む。ここにこのプロダクトの価値があります。
なぜ日本の法務にも関係があるのか
日本では、リーガルAIの議論がまだ「契約書レビューが速くなるか」「リサーチが楽になるか」に寄りがちです。
しかし海外の先行事例を見ると、論点は少しずつ変わっています。
今後の主戦場は、単発タスクの効率化ではなく、組織の法務品質をどう再現可能にするかです。
これは日本の法律事務所や企業法務にもかなり関係があります。なぜなら、日本の法務現場でも次のような課題は共通しているからです。
- ベテラン担当者に知識が偏っている
- 契約レビューの観点が人によって違う
- ひな形やナレッジはあるが、実務で十分に使われていない
- 新人や異動者の立ち上がりに時間がかかる
- 外部法律事務所とのやり取りが属人的になりやすい
AIワークフローの価値は、単に作業時間を短くすることではありません。
むしろ、組織の中にある「良いやり方」を再利用できる形にすることです。
導入時に見るべきポイント
もし日本の法務部や法律事務所が、Harvey AIのようなワークフロー型AIを検討するなら、見るべきポイントは機能の派手さだけではありません。
まず重要なのは、自社・自所のナレッジをどこまで安全に取り込めるかです。契約書、先例、レビューコメント、交渉方針、クライアント情報などを扱う以上、セキュリティ、アクセス権限、ログ、データの扱いは避けて通れません。
次に、ワークフローを誰が設計するのか。弁護士や法務担当者だけで作るのか、ナレッジマネジメント部門やリーガルオペレーション部門が関与するのか。ここを決めないと、便利なツールで終わってしまいます。
そして、AIの出力をどこで人間が確認するのか。ワークフロー化が進むほど、レビュー責任の設計が重要になります。
AIが仕事をするから人間が不要になる、という話ではありません。むしろ、どこをAIに任せ、どこで専門家が判断するかを設計できる組織が強くなる、という話です。
まとめ
Harvey AIのWorkflow Builder、現在のAgent Builderは、リーガルAIの進化を象徴するプロダクトです。
ポイントは、AIチャットを使うことではなく、法律実務の型をAIで再利用可能にすることです。
日本の法務にとっても、この視点は重要です。単に「AIで契約書レビューが速くなるか」を見るだけでなく、「自分たちの判断基準やナレッジを、どうすれば組織として再現できるか」を考える必要があります。
海外リーガルテックを見る面白さは、単に新しいツールを知ることではありません。
そのツールが、法務の働き方や、法律事務所のビジネスモデルをどの方向に動かそうとしているのかを見ることです。
HarveyのWorkflow Builderは、その意味で、初回に取り上げる価値のあるプロダクトだと思います。
参考
関連記事
Related

Legora aOSは、法務AIを「作業ツール」から「業務OS」に変えるのか
Legora aOSが示す、AIエージェントを前提に法務業務をワークフローとして再設計する視点を整理します。

記事に関するご相談・お問い合わせ
サービス導入・掲載・タイアップのご相談を承っています。

